真山仁『シンドローム』〜あの2011年の東日本大地震と原発大事故をハゲタカ流に切り込む〜

月日が経つと、人の記憶や思いは薄まってしまうものです。

2011年の東日本大震災と福島第一原発の大事故は、風化してしまい、すっかり、東京オリンピックや日常のことに誰もが流されているような錯覚がしています。

あの頃、誰もが考え、思い悩んだことは何だったのだろう。

庶民ではどうしようもない情報や問題の奥深さ、失敗などについて、誰もが忘れているのではないでしょうか。

そんな時期に、企業買収の「ハゲタカ」シリーズを真山仁さんが『シンドローム(上)』『シンドローム(下)』の2巻にわけて掘り下げてフィクションではあるものの、よりリアルなイメージを伴いながら、書かれた一冊を読みました。

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「ハゲタカ」シリーズは、真山仁さんのライフワーク

NHKのドラマとして大ブレイクした「ハゲタカ」は、近年、民放でもリメイクされてドラマ化されていました。

冷徹な企業買収家が仕掛けて、相手と戦い抜く、ハゲタカシリーズは、主人公の鷲津政彦のキャラクターとその周辺の人物も含めて、リアルで生々しく描かれています。

「日本を買い叩く!」と外資系投資ファンドをハゲタカと称して、描く内容は、人を惹きつけて、シリーズ化を続けています。

毎回、設定がリアルな事象を元に描くので、特定の企業名なども想像できるので、読者を想像と現実の狭間を行き来させる設定と内容が秀逸です。

作者の真山仁さんもライフワークとして、死ぬまで「ハゲタカ」シリーズは続けると断言しているので、楽しみ続けることができるでしょう。

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『シンドローム』は、東日本大震災と福島第一原発の当事者たちの動きを掘り下げる

「ハゲタカ」シリーズの最新作シンドローム(上)』『シンドローム(下)は、まさに、2011年の東日本大震災と福島第一原発事故を掘り下げています。

微妙に県名、電力会社名、政府関係者名などを変えているものの、読者の目に浮かぶ映像は、当時の混乱した関係者の顔と名前が浮かぶはずです。

今更、事故がなければ、どうなったのかという仮説を語るのではなく、どうして事故が起きて、その時点で関係者がどんな動き、思惑を持っていたのか。

そこに「ハゲタカ」のサムライ・キャピタル(投資ファンド)の鷲津政彦がいたならば、どんな関わり方をしたのだろうか、というフィクションを織り込んで描いています。

あの時、個人や組織、ともに守りたいものがバラバラであったという事実。

情報を得られなかった末端の人々と、暗躍していた面々。

事故調査委員会で暴かれたようで、曖昧に終わった、あの原発事故の真相は何だったのか。

そして、いまだに解決しない、地元に戻れない人たちと、長い年月かけても安全にならない地域と、汚染土・汚染水の問題などを誰もが忘れがちなだけに、この作品の重みを感じます。

政府側の思惑、官僚の立場と役割、地域独占の民間会社なのに公的すぎる電力会社。

誰の判断が正しくて、何が間違っていたのか。

私は、優先順位の問題を見誤ったことが本質だと考えています。

誰の何を守るべきクライシスがあったのでしょうか。

立場の異なる人の主観を語るように織り成しながら、進んでいく展開に、自分が誰の役割だったら、どう判断して、行動したのだろうかと考えさせられる場面が多くありました。

決して、悪を暴こうとするのではなく、未来をどう作るかというゴールで終わる点に、ハゲタカの新境地を味わうことができました。

丹念に事実となる材料を集めて、リアルでありながらも、そこに「ハゲタカ」が介在したらどうなるのかという設定の仕方は、真山仁ワールドを堪能できることは間違いありません。

色々と問題があるので、この内容を映像化することは無理があるでしょうけども。

今後とも、「ハゲタカ」シリーズが続くことをファンとして期待しています。

『シンドローム』と「ハゲタカ」シリーズ

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投稿者プロフィール

安斎 輝夫
安斎 輝夫
【サードプレイス】ブロガー 、安斎輝夫。長年サラリーマンとして家庭と職場だけの生活に疑問を持ち、2017年から「サードプレイス」を研究・実践し、人と人をつなぐコネクターな存在になろうと決める。
Expand your life with energy and support. というミッションを定めて、人生を一緒に拡張していける仲間を増やすために活動を展開。月1回のリアルなイベント「サードプレイス・ラボ」の運営するリーダー(主宰者)。また、6人で執筆する、週刊「仲間と一緒にワクワクしながら、大人が本当の夢を叶える!サードプレイス・メルマガ」(まぐまぐ)の編集長。Facebookページおよびグループの「サードプレイス・ラボ」も運営中。