「怪物」と呼ばれる存在は、常人とはかけ離れた能力・オーラを放つ者への愛称です。
「平成の怪物」といえば、松坂大輔投手でしたが、元祖「怪物」といえば、江川卓だったことを忘れてはいませんか?
高校当時の彼が、どれほど凄かったのかを、丁寧に探り上げてまとめた『江川卓が怪物になった日 (竹書房文庫)』を読んでみました。
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ホップするストレートと不運の怪物
私は、作新学院時代(1971〜1973年)の江川卓投手を知りません。まだ、この世に生まれていなかったので仕方ないです。
巨人のエースとして投げる彼の姿は、堂々としていたのですが、ものすごいピッチャーだというイメージはありませんでした。
彼の全盛期は、高校2年を中心とした栃木県大会や関東大会の試合の中にあったらしく、映像として見ることもありません。
オーバースローで投げ下ろすストレートがホップする(伸び上がる)ほどの球は、どんなものだったのだろうと想像すると、ワクワクさせられます。
スピードガンがないけど、160キロは出ていたストレートの威力と存在感があっても全国で優勝できず
当時の高校野球は、スピードガンによる計測もなければ、金属バットでもない時代です。
当時、対戦した選手・チーム、試合を見た人は、「すごかった」としか表現できない、江川の投げる球は、どんな者だったのでしょうか。
松坂大輔や大谷翔平も、当然、全国で有名になり、その後も、活躍を続けた元高校球児ですが、どうも彼らとは違った存在です。
PL学園のKKコンビと言われた桑田真澄とも違えば、荒木大輔のような、ピッチング技術と勝負勘を持って勝ち浮いた当主とも違うのです。
他を圧倒するようなストレートと、ものすごく落ちるカーブ(ドロップとも言われる)の2種類の変化球を駆使し、全力で全イニングを投げない、ポーカーフェイスの高校生、江川卓には、人を魅了するオーラがあったのは間違いないようです。
怪物フィーバーで彼を疲弊させ、練習不足に追い込んだ世間の高野連関係者
高校3年春の選抜大会への出場で、江川は全国区の怪物になりました。
1−2年当時の野球部監督のスパルタ練習でのランニングが減り、最上級生になった江川は、マスコミに追われ、ファンに追われる、人気者に祭り上げられました。
選抜後、夏の甲子園までの間に、全国行脚のように遠征試合を続けて、彼を疲弊させ、練習不足に追い込んだのは、彼に期待した全国の野球ファンと、高野連関係者だったと思います。
『江川卓が怪物になった日 (竹書房文庫)』の中でも、彼の球威・スピードともに、最後の高校3年生の時は、堕ちてしまっていたという証言が、たびたび出ています。
当時から、特別なスターが生まれると、熱狂しやすい日本人は、過度な期待とプレッシャーを選手個人、高校生の江川卓に与えたのです。
本来ならば、彼の肉体と精神面をケアすべき、周りの大人たちの配慮のなさが残念でなりません。
江川が本気で投げて、今の時代のノウハウがあれば、どんな選手になっていたのか
江川は、1試合の中で、本気で全力で投げる機会は少なかったと言われています。
クレバーな選手だけに、相手のレベル・力量に合わせて、打ち取れるペースで投げていたのでしょう。(意識的か、無意識かはわかりませんが)
当時の指導者たちは、戦後上がりの根性論・体罰も辞さないとシゴキのスタイル。
選手の体を壊すほど練習をさせることが鍛え上げるという風潮でした。
それだけに、今の科学的データや専門的なノウハウや技術を取り入れた時代に、江川が存在していたら、どんな高校野球の投手になっていたか想像をしてみたくなります。
おそらく、豪速球を投げつつ、体に負担のかからないトレーニングや栄養指導により、疲労を貯めずに、確実に結果を出していたことでしょう。
彼は、頭も良かった選手なので、間違いなく、最先端の科学や技術を理解して、「超・怪物」になっていた姿を思い浮かべてみます。
170キロのストレートとかも可能だったかもしれません。
孤高な怪物はヒーローから崩れ落ち、テレビのスポーツ番組の顔で良かったのか
高校野球など団体スポーツであれば、チームワークや友情があって成り立つ世界です。
ところが、当時の話を振り返る、作新学院野球部の仲間は、快く江川を見ていたとは感じられません。
勝っても江川、負けても江川。
一緒にチームとして戦っているのに、別次元の江川との距離感。
完全試合もこなすだけに守備の緊張感は半端ないものだったでしょうし、点数を取らなければというプレッシャーと、同じ高校生なのに、というやっかみもあったことは想像できます。
当時のチームメイトが亡くなっていたことを、取材をした松井さんは調べたのに、チームメイトたちは知らないままだったというエピソードなどは、理解に苦しみます。
孤高な怪物は、チームメンバーとの距離があった分、寂しさはなかったのでしょうか。
高校卒業後、法政大学に進学して六大学野球で活躍して、プロに入る中で「空白の1日」事件を契機に、彼のイメージは、怪物とはかけ離れてダーク要素を帯びたヒーローになっていきます。
晩年の100球肩など、色々な話題を振り撒いた上で、野球解説者、スポーツ番組の顔として長年活躍されてました。
でも、怪物の人生って、こんなゴールを目指していたのだろうか、と疑問を感じる気持ちが沸きました。
孤高な怪物を支援して、育て、フォローすることができれば、違う姿が見れたかもしれないと思うと、正直言って残念です。
全盛期の江川投手の投球姿をみれるのであれば、是非、一緒に見ませんか?
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【サードプレイス】ブロガー 、安斎輝夫。長年サラリーマンとして家庭と職場だけの生活に疑問を持ち、2017年から「サードプレイス」を研究・実践し、人と人をつなぐコネクターな存在になろうと決める。
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