山際淳司氏の遺作をまとめた『たった一人のオリンピック』にはマイナーへの愛がある

ノンフィクション『江夏の21球 (角川新書)』を世に出したことで、山際淳司(やまぎわ じゅんじ【本名:犬塚 進(いぬづか すすむ)】(1948年生まれ・1995年没)氏は、多様なスポーツ分野に光を当ててきた人物です。

私は晩年のNHKの「サンデースポーツ」のメインキャスターとアサヒスーパードライのCMの印象が残っています。

東京オリンピック2020に向けて遺作をまとめた『たった一人のオリンピック (角川新書)』を静かに味わってみました。

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有名選手にだけ焦点を当てないところが、山際淳司さんの作品の良さ!

山際淳司氏のスポーツノンフィクション作品は、有名選手にだけ焦点を当てないところが、リアル感に溢れて、秀逸な印象が残っています。

たった一人のオリンピック (角川新書)』で取り上げられた、男子ソフトボールや棒高跳び、ボート競技などのマイナースポーツの選手へインタビューを行い、その断片を切り取っています。

山際さんでなければ、生み出せなかったような作品に惹きつけられます。

マイナースポーツの選手に光を当てつつも、栄光のエンディングではない!

山際淳司氏のノンフィクションは、スポーツ選手・アスリートに焦点が当たるものが中心です。

メジャースポーツの選手のピーク時に光を当てることは少なくて、どちらかといえばマイナースポーツであったり、ピークアウトしたアスリートの姿を掘り下げている作品たち。

たった一人のオリンピック (角川新書)』の解説で石戸諭さんも取り上げた文章は私も、突き刺さった文章と一緒でした。

使い古しの、すっかり薄く丸くなってしまった石鹸を見て、ちょっと待ってくれという気分になってみたりすることが、多分、だれにでもあるはずだ。日々、こすられ削られていくうちに、新しくフレッシュであった時の姿はみるみる失われていく。まるでーーーと、そこで思ってもいい。これじゃまるで自分のようではないか、と。

この詩のような感覚に訴えかけている表現。

20世紀後半のノンフィクションなのに、映像が浮かんでくる感覚は、彼の力量を震えるように味わえます。

栄光のストーリーとは言えない短編集『たった一人のオリンピック (角川新書)』には、正直、今まで名前も知らない選手たちの生の姿に、人間臭さが染み渡る作品です。

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注目されないからこそ、注目したいのではないか

メダリストや有名・有望な選手・アスリートに向かわないので、世間的には注目されない大将こそ、注目したいと山際さんが考えたのではないかと推察します。

もちろん、対比するように、マラソンの瀬古利彦氏に触れることで、対比が目立ちます。

山際さん自身が、輝かしい活躍をするのは「江夏の21球」以降の話。

30歳まで、ライターとしての能力は高かったのに、世間には認められていなかった存在ということです。

注目されない20代を乗り越えて、ペンネームを用意して、スポーツ分野に絞ってノンフィクションを作り上げていくスタイル。

根性論中心のスポーツ界に、風穴を開けることで、彼自身が光り輝き、晩年は活躍するフィールドを広げていました。

それだけに、46歳という若さでこの世を去ったことが残念でなりません。

マイナースポーツをやっていたからこそ理解ができる

私自身が、高校の頃、陸上部で「砲丸投げ」という地味な投擲(とうてき)種目をやっていたので、マイナースポーツの悲哀は、痛いほどわかります。

競技への理解者が少ないし、興味を持ってもらえる人が限られている世界。

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それだけに、山際さんのマイナースポーツと選手への丁寧な表現を読んでみると、相手への優しさと読者への丁寧さが実感します。

メジャースポーツだから偉い、すごいというわけではなく、それぞれの競技・アスリートの頑張りにも注目を当てれれるのは、当時は、彼のような存在しかいなかったのです。

今なら、選手自身が、SNS発信やYouTubeなどを通して、伝えることも可能ですが、当時はメディアを持つことはなかったので無理だったのです。

おそらく、メジャースポーツをやっていたり、好きな方にはわかってもらえない話かもしれませんが、大事なポイントだと捉えています。

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現代のスポーツノンフィクションライターたちが、東京オリンピック2020を深く追う役割がある

山際さんのようなスポーツ・ノンフィクションライターたちが、東京オリンピック2020を深く追う役割があるのではないでしょうか。

彼らは、2020年夏にアスリート人生のピークをもっていくために、犠牲や苦労を乗り越えてきたはずです。

コロナウィルスという予想しなかった敵が現れたことで、開催が延期され、中止の可能性が出ています。

その間、どれほど不安を抱えながら、トレーニングを図り、自分の能力を磨こうとしていたのか、もしくは、引き際として協議を去る判断をした選手もいることでしょう。

ポスト・山際淳司が複数名で、是非、現在の状況をまとめて、世に残して欲しいと願っています。

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投稿者プロフィール

安斎 輝夫
安斎 輝夫
【サードプレイス】ブロガー 、安斎輝夫。長年サラリーマンとして家庭と職場だけの生活に疑問を持ち、2017年から「サードプレイス」を研究・実践し、人と人をつなぐコネクターな存在になろうと決める。
Expand your life with energy and support. というミッションを定めて、人生を一緒に拡張していける仲間を増やすために活動を展開。月1回のリアルなイベント「サードプレイス・ラボ」の運営するリーダー(主宰者)。また、6人で執筆する、週刊「仲間と一緒にワクワクしながら、大人が本当の夢を叶える!サードプレイス・メルマガ」(まぐまぐ)の編集長。Facebookページおよびグループの「サードプレイス・ラボ」も運営中。