三浦綾子『塩狩峠』を読んで、テーマの「愛」を深く考えてみた

過去の名作(書籍・映画・音楽・絵画など)は、時間があれば一度は触れてみたいもの。

読書会の課題本『読解力の強化書』(佐藤優・著)を読み解く上で、『塩狩峠 (新潮文庫)』(三浦綾子・著)は不可欠なので、じっくりと堪能して読んでみました。

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ラストシーンを知っている名作を読んでみて気づくこと

明治の青年、永野信夫の生涯を味わえる小説『塩狩峠 (新潮文庫)』(三浦綾子・著)の存在は知っていたものの、読もうと思うことはありませんでした。

書籍は、日々、新しいものがどんどん出版されていくのに、個人としての時間が限られてしまうので、読めるものは限られます。(どんなに速読・多読でも追いつかない世界です)

塩狩峠 (新潮文庫)』のラストシーンは、有名なもので知っているだけに、あえて読む必要を感じなかったというのが本音です。

ただ、名作だけに、読んでみないとわからないことがありました。

自分の命を投げ打つ男は、結婚間近だった!どうして、自らを犠牲にしたのか

塩狩峠 (新潮文庫)』は、一人の青年が、列車の暴走を止めるために、自らの命を投げ打ったという尊さを語る物語というゴール。

これは、実際に起きた話を元に、三浦綾子さんが書いています。

永野信夫がどんな生い立ち、成長を遂げて、大人になっていくのか。

家族、親友、同僚とともに、自分の人生をどこに向かって進めていくのか、というゴールがラストの場面になります。

信夫の人生を左右したのは、吉川という親友の存在。そして、妹・ふじ子という病気を抱えた女性への思い。

自己犠牲的な生き方をできたのは、信夫が、キリスト教徒だったから、と簡単に片付けてしまうのでは、本来の内容を読み解けていないでしょう。

彼には、ふじ子との結婚(結納)が直前だったのに、なぜ、自らの命を投げ打つ行為で、列車に乗る人々を救おうとしたのか。

この点をじっくりと考えてみないと、この小説の大事なポイントは掴めません。

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宗教によって救われる心、人物について

「信教の自由」が日本国憲法で述べられているのは、今までの歴史で、紛争や戦いの元になった宗教を対立するのではなく、個人が求める自由なものと定義付けされています。

仏教、キリスト教、イスラム教、その他宗教は、その考え方に神や仏などへの理解を深めて、今を生きるために人々が大切にしてきました。

結果として、対立する相手(宗派同士の争いも含む)との激闘もあるがために、時代を動かす要因でした。

今でも、世界各国で、宗教の考え方による対立がなくなっていませんが、無宗教の人々が多い、日本人にとっては、縁遠い世界です。

冠婚葬祭以外であれば、神棚や仏壇に手を合わせたり、日曜日に教会に足を運ぶ程度の人以外は、日々、無意識、無縁なものです。

それだけに、『塩狩峠 (新潮文庫)』の永野信夫が、坊主になろうと子供の頃、吉川と誓ったことも、キリスト教徒になっていく姿も、別次元の世界に感じるのではないでしょうか。

このポイントを理解して、信夫を理解しようとしないと、最後の場面も、彼の人生や行動も納得できないと感じる人もいるはずです。

少なくとも、彼は、自分の信じるキリスト教と、愛している(本当の愛なのかはわかりませんが)ふじ子への思いを優先して、人生を過ごしました。

最後は、自己犠牲で終わることによって、ふじ子を幸せにできなかったという未来があったような気がします。

その点において、彼は無責任だと批判する意見があるのもうなづけます。

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究極の選択として、自らの命を差し出す気持ちは理解できるのか

自らの命を差し出さなければならない場面に遭遇する人間は少ないでしょう。

確かに、自らが身体を張って、誰かを守るという行為は尊いものです。

ただ、自分の命を終えてしまうということへの納得感があるのでしょうか。

発作的に、後先を考えずに、何かを救うために、自らの命を投げ出す瞬間、余計なことは全て考えていないのだと推測します。

塩狩峠 (新潮文庫)』の主人公、永野信夫は、あのラストシーンのために、人生を生きてきたとすると、彼が考え抜いて、悩んできたものをどう捉えていけば良いのか、私には疑問が残ります。

他人の命のために、自分の命を差し出せる場面は、ドラマや映画では目にすることはありますが、リアルに遭遇したとしたら、私は、躊躇してしまうと思います。

宗教心がある、ない、の問題ではなく、自分の今を瞬間だけでなく、トータルで考えてしまう人間だからなのでしょう。

打算や計算と言われてしまうかもしれませんが、普通の人間が、一瞬の判断ではできないのが命を捨てる自己犠牲なのです。

もし、今の時代に、塩狩峠の事故が発生したら

もし、今の時代に、塩狩峠の事故が発生したらどうなるでしょう。

一つには、鉄道会社の点検不備、対応に関して、批判が殺到することは間違いありません。

おそらく、ネットニュースやワイドショーで相手を叩くのでしょう。

そこで、自己犠牲で列車を止めた人を尊い存在だと、賞賛しつつ、映像化などと考える輩がいるはずです。

信夫のようなパートナーや家族がいた人は、本人への思いを表向きでは称えるような言葉を発するかもしれませんが、心の中ではどうでしょう。

彼の命の代償を鉄道会社に請求するのでしょうか?

私としては、美談にするには、どうも違和感が残ります。

結局、『塩狩峠』は「愛」について考える作品だった

結局のところ、『塩狩峠 (新潮文庫)』は「愛」について考える作品だったと考えます。

大好きな、ふじ子への「愛」

親友である吉川への「友愛」

給料袋を盗んでしまう同僚を許していく「信愛」

キリスト教への「愛」

さまざまなものが詰まっているからこそ、主人公の信夫が最後にとって行動は、キリスト教信者として、最善の選択として自らの命を差し出す自己犠牲という終わり方で幕を下ろしています。

作家・三浦綾子さんのバックボーンとして、自らの病とキリスト教へ思いを、実際に起きた事故を踏まえて語っていたのは間違いありません。

正直言えば、内容や展開に好き嫌いは出てきますし、理解できるできないの問題も残る作品ですが、単純なエンターテイメントとは違い、深く考えることができる点では、『塩狩峠 (新潮文庫)』は秀作なのはいうまでもありません。

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投稿者プロフィール

安斎 輝夫
【サードプレイス】ブロガー 、安斎輝夫。長年サラリーマンとして家庭と職場だけの生活に疑問を持ち、2017年から「サードプレイス」を研究・実践し、人と人をつなぐコネクターな存在になろうと決める。
Expand your life with energy and support. というミッションを定めて、人生を一緒に拡張していける仲間を増やすために活動を展開。月1回のリアルなイベント「サードプレイス・ラボ」の運営するリーダー(主宰者)。また、6人で執筆する、週刊「仲間と一緒にワクワクしながら、大人が本当の夢を叶える!サードプレイス・メルマガ」(まぐまぐ)の編集長。Facebookページおよびグループの「サードプレイス・ラボ」も運営中。