氷室貢一郎、と言う名前を聞いて、どんな人物か思い出せる人はいるだろうか?
彼こそ、海堂尊さんの『チーム・バチスタの栄光』と言うドラマ化、映画化もされた作品の犯人、麻酔科医です。
今回、読んだ『氷獄』(海堂尊)は、その後の氷室貢一郎を知れる一冊でした。
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事件は犯人逮捕で全てが終わるのは勘違い!
昔、「事件は会議室で起きているんじゃない、現場で起きてるんだ!」と言う名ゼリフがありました。(映画『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』の青島俊作の言葉)
今回、『氷獄』(海堂尊)を読んで、このセリフをオマージュして、次のような言葉にしてみます。
「事件は犯人確保でおあるんじゃない!四方で捌いて決まるんだ!」
裁かれるべき人物、氷室貢一郎は、死刑になったのか!
チームバチスタで登場する、天才的外科手術チームの麻酔科医、氷室貢一郎が手術中の患者を殺したというストーリーは予想外で、驚きを世間にもたらしました。
ミステリーとして、想定外の人物を犯人に仕立て上げたこともさることながら、麻酔科医というい存在が扱う、麻酔液の中身は第三者には把握できないという現実。
日頃、目立つことのなかった医療関係者に焦点が当てられることになったような気がします。
合計3名の患者を手術中に殺害した、殺人麻酔科医の氷室は、当然、逮捕されて、『チーム・バチスタの栄光』はエンディングを迎えます。
殺人犯が司法の手で裁かれていくのだろうとまで、想定しながら読んだ読者はいなかったと思います。(ミステリーとしての役割は果たしたので)
小説の中とはいえ、時系列があるのであれば、バチスタ事件後の東城医大のスピンオフな作品を世に出し続けた、海堂尊さんですが、氷室をそのままフェイドアウトしておかずに、再度、作品の中に登場させるのは、「バチスタ」愛を感じました。
冷徹な異常性を持ち合わせた殺人犯だって、司法の裁きは必要だから
心臓外科手術中に患者を殺すという氷室の行為は、小説の中でも許されるわけはなく、主人公の不定愁訴外来(愚痴外来)の田口医師らの活躍で事件の謎は説かれていきました。
この辺りの面白さは、『チーム・バチスタの栄光』を読んでいただきたくしかありません。
問題は、犯人として逮捕された、氷室貢一郎が、その後、どうなったのだろうと考えることはないのでしょうけども、現実社会であれば、司法の場で裁かれるべき予想できる展開の範疇です。
『氷獄』は、医療系ミステリー短編3本と一緒に含まれる「氷獄」に描かれていました。
当然、登場人物は、新人弁護士・日高正義という新キャラが登場し、医療と司法のバランスを捉えて描かれていきます。
かつての登場人物キャラも混ぜながら、ファンの心を繋ぎ止めつつ、氷室がどんな人物で、どう裁かれていくのか、に焦点が当たっていきます。
3人の人間を殺害したのだから、死刑が妥当だという短絡的な物語ではなく、国選弁護人を拒絶して、黙秘する彼の真意、そして、エンディングで起きる事象は、現実の歴史と相まって、興味深いものでした。
冤罪事件がある以上、自白だけで物証を伴わない判断は危険を伴う
医療と司法の立場や考え方の違いを軸におきつつも、冤罪事件が生まれてしまう背景に、かつては自白の強要があり、十分ではない物証を元に判断されて、裁かれる人物がいたからこそ、冤罪事件は生まれていたのです。
科学的・医療的な技術の進歩により、より確かな証拠を持って、事件解決、犯罪究明ができるにもかかわらず、恣意的な判断を用いて、情報をコントロールするとしたら、許される行為ではありません。
氷室自身は、自らの侵した罪で死刑になることは、織り込み済みだったものの、その事実を立証されないまま、というのは許し難い行為だったのは想像できます。
海堂尊さんらしく、サイドストーリーのような事件・裁判なども、うまく絡め取って、ラストにまとめていく展開力は、素晴らしいとしか言いようがないのですが。
事件の延長線を書き上げた海堂尊の「バチスタ」愛
医療ドラマに感動が芽生えるという単純さではなく、そこで事件が起きる設定の意外性で世に出た「バチスタ」と海堂尊さん。
出世作のインパクトを持ちながら、スピンオフ作品で、医療の闇と犯罪を暴いていく力は、彼のバックボーンと知識が、専門的な立ち位置の目線だったことを物語っています。
最近、過去の作品の未来を描くストーリーや、時系列を長期にしていく展開力のあるエンタメ作品(小説・映画など)が増えています。
時間軸を操ることで、深みを増すというのはわかりつつも、私としては、ご都合主義的な要素は拭えない感じが残っていました。
その点、『氷獄』は、冷静に、犯人・氷室のその後の人生、法の裁きを受けるという変遷を追いかけているのが印象強く、著者がじっくりと練り直して、バチスタ事件の未来を書いたのだと理解できました。
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【サードプレイス】ブロガー 、安斎輝夫。長年サラリーマンとして家庭と職場だけの生活に疑問を持ち、2017年から「サードプレイス」を研究・実践し、人と人をつなぐコネクターな存在になろうと決める。
Expand your life with energy and support. というミッションを定めて、人生を一緒に拡張していける仲間を増やすために活動を展開。月1回のリアルなイベント「サードプレイス・ラボ」の運営するリーダー(主宰者)。また、6人で執筆する、週刊「仲間と一緒にワクワクしながら、大人が本当の夢を叶える!サードプレイス・メルマガ」(まぐまぐ)の編集長。Facebookページおよびグループの「サードプレイス・ラボ」も運営中。